みなさんこんにちは!
今回は犬のアトピー性皮膚炎の治療法についてご紹介!
愛犬が体を掻きむしる姿は見ているだけで辛いですよね。この記事では、犬のアトピー性皮膚炎の治療法と新薬、ゼンレリアについて獣医師が詳しく解説。かゆみに苦しむ愛犬のための正しい知識を身につけましょう!
導入|
犬のアトピー性皮膚炎の治療法とゼンレリアについて

近年、犬のアトピー性皮膚炎の治療に新薬「ゼンレリア」が登場し、注目を集めています。しかし、まずは従来の治療法からご紹介します。
解説|
犬のアトピー性皮膚炎の治療法について種類、概要
概要
犬のアトピー性皮膚炎の治療は、多くの場合生涯にわたる管理が必要となり、主な目的は症状、特に痒みをコントロールすることです 。治療法には様々な種類があり、それぞれの犬の状態に合わせて獣医師が選択します。
1. 環境整備
アレルゲンの特定とその回避が基本となります。例えば、ハウスダストが原因の場合、こまめな掃除や空気清浄機の使用が効果的です。
2. シャンプー療法
低刺激性のシャンプーや保湿剤を使用し、皮膚のバリア機能を強化します。定期的なシャンプーは、皮膚表面のアレルゲンや細菌、真菌などを洗い流し、皮膚を清潔に保つために重要です 。低刺激性で保湿成分を含む犬のアトピー性皮膚炎対応のシャンプーが推奨され、週に1回程度の頻度が目安とされています 。シャンプー後の保湿も皮膚バリア機能をサポートするために重要です 。
3.食事療法
食事療法 は、食物アレルギーが関与している場合に特に重要で、原因となる食物を避ける必要があります 。必須脂肪酸(オメガ3など)を多く含む食事は、皮膚の健康を維持し、バリア機能を改善するのに役立ちます 。アレルギー対応の療法食も市販されており、獣医師の指導のもとで選択することが推奨されます 。
4.薬物療法
かゆみや炎症を抑えるために、主に以下の薬剤が使用されます。
- ステロイド療法
ステロイド療法 は、炎症や痒みを素早く抑える効果があるため、急性期の症状緩和によく用いられます 。プレドニゾロンなどが代表的な薬剤です 。しかし、長期使用や高用量で使用すると、多飲多尿、食欲増進、免疫力低下などの副作用のリスクがあるため、注意が必要です 。 - 免疫抑制剤
免疫抑制剤 は、過剰な免疫反応を抑制することでアレルギー症状を抑えます。ステロイドに比べて効果発現は遅い傾向がありますが、副作用は少ないとされています 。シクロスポリンなどが代表的な薬剤です 。 - 抗ヒスタミン薬
軽度のかゆみの軽減に役立つことがありますが、他の治療法と併用されることが多いです。 - 分子標的薬(ゼンレリア以外のJAK阻害剤、例:アポキル)
かゆみや炎症の経路に関与する特定の分子を標的とします 。 - インターフェロン療法
アレルギー反応を軽減するために免疫システムを調節することを目的としています 。 - 抗体医薬(例:サイトポイント)
かゆみを引き起こす特定のタンパク質(IL-31など)を標的とする注射薬です 。
治療法 | 作用機序 | 効果発現の目安 | 主な潜在的副作用 |
---|---|---|---|
ステロイド療法 | 炎症反応を広範に抑制 | 数時間~数日 | 多飲多尿、食欲増進、免疫力低下、長期使用で肝臓・ホルモン異常 |
免疫抑制剤(シクロスポリン) | アレルギー反応に関わる特定の免疫細胞の活動を抑制 | 数週間 | 嘔吐、下痢、感染症リスク増加 |
シャンプー療法 | 皮膚のアレルゲンや細菌を除去し、皮膚バリアをサポート | 数日~数週間(補助療法) | 刺激の強いシャンプーは皮膚の乾燥や炎症を悪化 |
食事療法 | 食物アレルゲンを特定・除去し、健康維持に必要な栄養素を供給 | 数週間~数ヶ月 | 食物アレルギーでない場合は効果が限定的 |
抗ヒスタミン剤 | ヒスタミンの作用をブロックし、かゆみを軽減 | 1~2時間 | 眠気(犬ではまれ)、効果が低いことが多い |
減感作療法 | アレルゲンを少量ずつ投与し、徐々に体の過剰反応を抑制 | 数ヶ月~1年 | 注射部位の反応、まれにアナフィラキシー |
インターフェロン療法 | 免疫バランスを調整し、アレルギー応答を軽減 | 数週間~数ヶ月 | 副作用は比較的少ない |
分子標的薬(アポキル) | かゆみや炎症に関わる特定の分子経路を阻害 | 数時間~数日 | 嘔吐、下痢、感染症リスク |
抗体医薬(サイトポイント) | かゆみを引き起こすIL-31を特異的に阻害 | 1日程度 | 副作用は少ない |
解説|
ゼンレリアについて
ゼンレリアの概要
ゼンレリア(一般名:イルノシチニブ)は、犬のアトピー性皮膚炎およびアレルギー性皮膚炎に伴う痒みを緩和するために開発された新しい経口JAK阻害剤です 。アポキル(オクラシチニブ)と同じJAK阻害剤の仲間であり 、痒みの原因となるサイトカインのシグナル伝達経路を遮断することで、痒みと掻き壊し行動の悪循環を抑えます 。特に、IL-31という痒みを引き起こす主要な物質の働きを阻害することが知られています 。
ゼンレリアの大きな特徴の一つは、投与開始後1日から痒みの改善が見られることが報告されている点です 。効果発現が早いことは、痒みに苦しむ犬とその飼い主様にとって大きなメリットとなります 。また、1日1回の経口投与で済むため、投薬の手間が軽減され、飼い主様の負担が少ないのも利点です 。食事の有無にかかわらず投与できるため、投与タイミングに柔軟性があるのも嬉しいポイントです 。ヨーロッパでの臨床試験では、ゼンレリアを投与された犬の77%で痒みが軽減するという高い有効性が示されています 。
ゼンレリアの適用
ゼンレリアは、12ヶ月齢以上の犬、かつ体重3.0kg以上の犬に適用されます 。具体的には、犬のアトピー性皮膚炎に伴う症状、およびアレルギー性皮膚炎に伴う痒みの緩和に用いられます 。
ただし、妊娠中、授乳中、または繁殖を予定している犬への安全性は確認されていないため、これらの犬には使用を避けるべきです 。また、重度の感染症のある犬には使用できません 。ゼンレリアは免疫系を抑制する可能性があるため、毛包虫症などの日和見感染症のリスクを高める可能性があります 。そのため、投与にあたっては、獣医師が犬の健康状態を十分に評価し、治療上のリスクとベネフィットを慎重に検討する必要があります。過去に重篤な感染症や腫瘍の既往歴がある犬への投与も慎重に行う必要があります 。
ゼンレリアの使用法
ゼンレリアは、有効成分であるイルノシチニブとして体重1kgあたり0.6~0.8mgを、1日1回経口投与します 。体重によって投与量が異なり、様々な体重に対応できるよう、異なる容量の錠剤が用意されています 。例えば、体重3.0~3.6kgの犬には3.6mgの錠剤を1錠、7.6~10.0kgの犬には10mgの錠剤を1錠投与します 。
食事の有無にかかわらず投与できますが、毎日可能な限り同じ時刻に投与することが推奨されています 。これは、血中濃度を安定させ、効果を最大限に引き出すためと考えられます。錠剤を分割して投与する場合は、分割後3日以内に使用する必要があります 。
従来の治療との違い
ゼンレリアは、同じJAK阻害剤であるアポキル(オクラシチニブ)と同様に、痒みを引き起こすサイトカインの働きを阻害しますが、効果の持続時間が長いため、1日1回の投与で済むことが多いです 。アポキルは通常、初期には1日2回投与が必要となる場合があります 。この投与回数の違いは、飼い主様の利便性向上に繋がります 。
ステロイドは、即効性があり、強力な抗炎症作用と抗痒み作用がありますが、長期使用による副作用のリスクが懸念されます 。一方、ゼンレリアは、ステロイドのような広範な免疫抑制作用はないと考えられていますが、免疫抑制のリスクもゼロではありません 。そのため、副作用の種類や程度に違いがあると言えます 。
シクロスポリンも免疫抑制剤の一つですが、効果発現までに時間がかかるという特徴があります 。ゼンレリアはより早く効果を発揮する可能性があるため、早期の痒み軽減を期待する場合にはメリットがあります 。
興味深いことに、ゼンレリアは、アポキルが効果を示さない症例にも効果を発揮する可能性があるという報告があります。これは、ゼンレリアがJAKを非選択的に阻害するのに対し、アポキルはJAK1に選択的であるためと考えられています 。
再生医療などの新しい治療法も存在しますが、適応となる症例や費用などが異なります 。ゼンレリアは経口投与が可能であり、比較的簡便に使用できるため、多くの飼い主様にとって利用しやすい選択肢となる可能性があります 。
ゼンレリアに関するクイズ
参考文献
- 犬のアトピー性皮膚炎について|痒みの原因の特定が大切 – かやま動物病院, https://www.kayama-ah.jp/17182775659752
- 犬のアトピー性皮膚炎とは|病気の解説と最新の治療法|動物再生医療センター病院, https://hospital.anicom-med.co.jp/arm-center/owner/disease/ad/
- 犬アトピー性皮膚炎|犬のかゆみ.com | Zoetis, https://www2.zoetis.jp/dog-itching/sick/atopic
- 皮膚科医が教える皮膚病 『アトピー性皮膚炎』 | 皮膚科・耳科専門診療 – 西山動物病院 | 流山市・南流山・松戸市・柏市, https://skin.nishiyama-ac.jp/skin/1756/
- アトピー性皮膚炎ってどんな病気? | あつたペットクリニック(アニコムグループ), https://hospital.anicom-med.co.jp/atsuta/disease/skin/20200902/505/
- 森田動物医療センター|犬のアトピー性皮膚炎について, https://www.animal-hospital.jp/blog/388
- 犬アトピー性皮膚炎が増加中?症状と治療法をチェック | 北千束動物病院,
おわりに|
今回の記事では、犬のアトピー性皮膚炎の基礎知識から、新しい治療法であるゼンレリアについて詳しく解説しました。アトピー性皮膚炎は、痒みや皮膚の炎症など、わんちゃんにとって辛い症状を引き起こす慢性的な病気です。ゼンレリアは、従来の治療法とは異なる新しい作用機序を持ち、1日1回の投与で効果が期待できる選択肢の一つです。しかし、ゼンレリアを含む全ての治療法には、メリットとデメリットがあります。愛犬の皮膚のことでお悩みの場合は、自己判断せずに、必ずかかりつけの獣医師に相談し、最適な治療法を選択してください。今回の情報が、飼い主様とわんちゃんがより快適な生活を送るための一助となれば幸いです。